言葉もいらないほどの、

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落ち着き計らったその声とは対照的に、歯切れ悪く答える俺。 BAR特有のムードの欠片もないな。 1人心の中でそう思っていると、俺の言葉にその人は「あっそ。」とどうでもよさそうに答えた。 ……自分から話かけてきた癖に、なにそのあからさまな感じ。 「……あなたも1人ですか。」 「そうだよ。見ればわかるでしょ。」 「…………そうですね。」 一言多いその返しに、少しイラッとして答えるのに一瞬の間が空く。 そして少しの反抗心というか、仕返しというか、そんなつまらないことを理由に、俺は言った。 「1人で飲みながら泣くほど、嫌なことでもあったんですか?」 さっき気付いた目の赤みに、泣いたんだということはすぐにわかった。 まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのか、その人が視線だけを俺に向けてくる。 「お前うざいな。」 そして俺も、まさかの暴言にポカンとしてしまった。 そんな俺をみて、ふっと軽く笑ったその人は、飲みかけのカクテルを一口飲んで、 「他人の触れられたくないところに土足で踏み込む奴は、女にモテないよ。」 そう言った。
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