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先輩の話をかいつまんで言うと、こんな話だった。
これから先輩が用意するある食材を試食し、その味のコメントをより的確に説明なりプレゼンなり出来た方が勝ち。勿論グルメリポートは、ただ「美味しい」だけではどう美味しいのかが伝わらない。そのためにはボキャブラリーをフル活用し、視聴者に共感を促すような説明をしなくてはならない。そのボキャブラリーを選んだり増やしたりするということは、今後の文学活動にとって大いに有益なのではないか、と。
「…なるほど。思ったより高尚な理由だったっすね」
「ふふん、まあね。テレビに出てたお偉いさんの真似事だけど、しないよりマシでしょ?」
「はい。てっきり先輩が間食をとる口実の為だけだと思ってたっすから」
「まさかー。困っちゃうなぁそんな言いぐさじゃ。まるで私が食いしん坊みたいじゃない。あは、あはは…」
「じゃあ目を露骨に泳がせるのをやめてください」
「ぐっ…。えーそーですよ!万年ご飯を満腹になるまで食べることしか考えてませんよーだ!」
突然逆ギレのような形で台を叩く先輩だった。そんな小柄な体に、よくもそこまでの食欲があるものだ。一体栄養素はどこに向かっているのだろうか。
「…げふん。ま、まあいいや。ちゃっちゃと済ましちゃお。第一ラウンドをね」
「第一って、第二とか第三まであるんすか」
「私が満足するまで、そのマラソンは終わらない…」
ふふふ、と不敵な笑みを浮かべる先輩に俺は嘆息した。なんだ、わかっていたとはいえやっぱり先輩が食べたいだけじゃないか。
「第一ラウンドとはいえ、始まった先からクライマックスだと思ってね!間もなく決戦の火ぶたが落とされようとしているよ…!」
「能書きはいいんで早くしてくださいっす」
「ややっ、強気だねー、橋本。百戦錬磨のこの私に、太刀打ちできぬまま吠え面かくといいよ。それじゃいってみよー!第一ラウンドは…これっ!」
台の下から先輩が取り出したのは、ラーメン屋が出前で使う岡持ちだった。普通、こう、グルメリポートの時って蓋に取っ手が付いた銀色のアレを皿に乗せてやってくるものだと思うのだが。
「もの言いたげな顔してるけど質問は後回しにするねー。まず食べて頂くのは…こちらになりまーす!」
ガラガラと蓋を開けて出て来たのは、俺も一瞬その場違いな「それ」に目を奪われる一品だった。
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