3人が本棚に入れています
本棚に追加
「マジもマジです。本気と書いてマジ」
「こんな部室にはいられないっすね。俺は帰らせてもらうっす」
「ま、待ってよー!冗談!マイルドジョークだからさー!」
席を蹴るように立ち上がった俺を部長は必死に止める。もし本気でやって火事にでもなって、俺まで犯罪の片棒を担がさせるような目に遭うのは御免被りたいのだ。この面白ければなんだっていい人のことだから、何をしでかしてもおかしくない。
「……本当に冗談なんでしょうね」
「真に受けちゃったなら謝るからさぁ、ね?だから帰るのは待って?」
目が真剣なので信じることにしたが、俺は岡持ちの中から言いようのない存在感を放っている青魚に目をやった。
「…でも、じゃあこいつどうやって食べるんすか。さすがに生はキツいっすよ」
「ふっふっふ…。まんまと騙されたね」
鬱陶しいくらいに笑みを浮かべながら、またも教壇の下から平皿を取り出した。それは陶器の器で長方形をしており、その上には焦げた茶色といぶし銀の皮が食欲をそそるグラデーションを織りなす料理が鎮座しており、俺も一瞬言葉を唾液と一緒に飲んだ。
「…先輩、これは」
「こんなこともあろうかと思いまして、前から用意していたのです!サンマの塩焼きをね!」
ノリが完全に料理番組のそれである。もし俺がサボったりして来なかったら、一体この人はこのサンマをどうするつもりだったのだろうか。いや、それよりも気になる事が一つある。
「いや、良くできてるとは思いますけど…。一体いつ焼いたんすかこれ?冷め切ってる訳じゃないですし」
「四時間目の家庭科が調理実習だったんでそのついでに。同じ班の子らがマーマレードのジャム作ってる隙をついてグリルにサンマをね、ほいっと」
「先輩はあれっすか、班員に何か恨みでもあるんすか」
俺は顔も名前も知らない班員らに心の中で謝罪する。皆さんすいません、この人は悪意があってやったわけじゃないんです。ちょっとおつむが悪いだけなんです。
「まあまあ、前置きはこのくらいにして…早速始めよ、橋本」
「…わかりましたよ。先輩が顰蹙買うのも恐れず焼いてきたものを冷めさせちゃうのはもったいないですしね」
俺は弁当箱を取り出し、そこから箸だけを抜き取ってその焼けたサンマと対峙する。ビジュアルは文句なしに美味しそうだし、きっとこれも家庭科室で作ったのだろう大根おろしもある。
最初のコメントを投稿しよう!