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「違う違う。僕らは如何様なんかしとらせんわいね」
土手川は柄の悪い男に顔をテーブルに抑え付けられながら、抗議している。
「そうだよ。土手川君、『ら』は余計だよ」
同じくポーカーに 参加したカメラマン、荒川功もポーカーのテーブルに顔を抑え付けられている。
「嘘を吐くな。勝ち逃げばかりしやがって!」
柄の悪い男達は土手川と荒川の頭をグイと引っ張って言質する。
なる程ね。ポーカーの如何様をしただのしないだので揉めているんだ。稀代の推理作家が如何様を暴かれるなんて滑稽な話だ。凛子はそう思いながら喧騒の様子を眺めていた。
丘野も我妻も乱闘の顛末を見守る。ステージで踊る龍華も。
こういう場合は他人の揉め事には手を出さない事に限る。大抵の場合は直ぐにかたが着く。
「如何様をしたと言うなら、僕がどう言う如何様をしたんか教えて貰いたいんじゃが」
土手川は厳つい体躯の客に怯えながら、如何様の解明を求めた。
ズレた眼鏡から覗いた恐怖で怯えきって作り笑いを浮かべる土手川からは、この男が14人もの人間を殺害した冷酷な殺人鬼だとは到底思えなかった。
だが、人間は見かけによらない。今は善良な市民の顔をしているだけかも知れない。
そう思いながらも凛子はフロア全体を見回した。
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