Gに捧げる犯罪

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 土手川は推理作家――。  先述した通り監視されている事は百も承知しているので、この期に及んで付け焼き刃の演技に出るかも知れないと凛子は思ったが。 彼の写真を握りしめわなわなと震える手や、被害者の背後で蠢く真犯人を睨むような眼差し、そして真一文字に結われた口許からはそうは思えなかった。 自分に濡れ絹を着せられた事も含めファンを殺害された事も同時に許せない――そんな殺気めいた表情は、 クラブで出逢った時とは明らかに違っていた。  「どうやら本当みたいだけど、被害者14人に付いていたあなたの指紋はどう説明するの?」  被害者14名の衣服には土手川の指紋が付着していたことを凛子は言質する。土手川は写真を持った儘動かなかったが静かにそれをテーブルに戻すと、溜め息をつきながら答える。  「ファンサービスの一環としてボディタッチする事はあるよ。恐らく指紋はその時のものじゃろうて、ねえ荒川君」  隣に座る荒川に証人を求めた。  「僕に訊く? 確かにしていたね。然し他意は無かったかと」  証人が同席して尋問の手間が省けたかも知れないと思いながら、凛子は、これが土手川を嵌める為の罠の可能性も考えた。 土手川に恨みを持った人間が関係者の中にいるかも知れない。作家仲間か。出版業界の人間か。あるいは狂ったファンか。  「警部の姉や。ええかな。もし僕が本件の犯人ならばじゃが、自分で犯人像が割れるような三流ミッシングリンクは残さんよ。ミッシングリンクは集めてなんぼのヒントじゃけ」  「推理作家書いてるだけによくご存知ね、ついでに訊くけど、あなたに恨みを持ってそうな人物に心辺りは?」
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