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「多くの場合、恨みを持たれないように書いとる積もりじゃが、人によっては恨んだり僻んだりする人もおるじゃろうね」
土手川は取り調べの天井を見詰めながら、その人数を数えた。その結果、計測不能と言う四桁の数字しか出て来なかったが。
「ちょっと待って。恨みを持たれない書き方とは?」
凛子は聞き慣れない言葉に眉を潜めた。
「『アクタークリエイティング』実在の人物を登場人物化するんです。僕もその一人ですが」
荒川が代言する。
「そうそう。ドラッグ中毒のスター女優や金に覚える映画監督なんかを追いかける敏腕カメラマンの役で、妻と数々の疑惑を持つ実業家と、訳あり上院議員の長男に浮気のプロの長女、それに隠し子多数ふしだら神父の次男、我が儘放題の双子の疑惑を追う話を書いたよね」
ごちゃごちゃしてて混乱しそう……凛子は話題を起動修正しようと質問を続ける。
「じゃあ、あなたのそのキャスティングが気に食わないからファンを殺害して恨みを晴らそうとしたのかしら?」
「と言うより、自分の役より他人の役が格好良いから嫉妬したとも考えられるが」
土手川はそこまで言うとある事に気付いた。
「警部の姉やが正しいとすると、犯人は必然的に僕の作品を読んでいて、僕がキャスティングした事のある人物と仮定出来る。だとしたら犯人は被害者と同じファンと言う事になる」
皮肉な仮説に土手川は納得出来なかった。自分の作品の所為でファンがファンを殺害したなんて悲劇は考えたくなかったのだ。
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