一章 デートしませんか

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 俺はドキッとした直後、周囲を見て「大丈夫です!」といいながら逃げた。  プライベートでは上条さんは意外と優しいけど、職場では他人の目が気になった。デレデレしたら、ばれそうだ。  俺たちがゲイであることとか、俺たちに肉体関係があることとか、付き合うようになったことをばらしたくない。  頬が熱いぜ。  意識しないようにしていても、体は正直だった。  フロアに戻ったら、部下に驚かれた。 「あれ? 森さん……ヴザレビアン? ヴザヴェドラフィエヴル……」 「ノン、ノン、サヴァ。ジュスィトレビアン」  ……うちの店ではネガティブな話題や身内の会話はフランス語でやりとりするから、日常会話のフランス語を覚えちゃった。客の前では「大丈夫?」とか「熱があるの?」とか人を心配させるような日本語の声掛けは厳禁だ。  私語も基本は厳禁。ただ、こいつらは基本的にお調子者なので、鬼の目をかすめてフランス語で粋なやり取りを楽しむことがある。  客もそれを喜んでいるし、たまに外国から客も来るから叱ることもできない。
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