一人称がない蝸角な世界

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「お前の言いたいのは、本当の別れだったか」 ちょっと違う気がするなあ。 そうじゃない。本来の別れだよ。 「本来の別れか。本当の別れと本来の別れ、この違いはなんだ。俄に訂正されても、やや理解が遅れるが……」 それもそうか。彼の困り顔で、ちょっとどうするか分からない。少しでも説明しよう。詳解すれば彼なら分かる。 本来の別れと、本当の別れ。この違いって単純なんだけど、本来の別れは経緯の話で、本当の別れは結果の話、だと思うよ。 「まてまて。お前、本来の別れは経緯、本来の別れは経緯、そう述べたが……可笑しいだろう」 急に滑稽って酷いな。 「滑稽だ、じゃなくてだな。お前の言った二つが理解出来ないだけだ。妙だと言いたいだけだ。本来の別れが経緯より、結果で……本当の別れが経緯だろう。まて、そうだとしても違和感があるな」 どう言う事。一片さえ分からないんだけど。 「先ず、別れに付いて定義しよう」 彼が揃えた人差し指と中指で机を叩いて、整理しようとしているのを見た。柔らかい椅子に身を任せる。長期戦になるかなあ。嫌だなあ。思い付きなんだけどなあ。 うん、それで、どうするの。 「その前に、これからは偏見でいく。良いな、お前の妙な理路から導かれた答えを、理解する。それだけの謂で、通例から些か離れた解釈をする。噛み砕いて言えば、お前を知る為に世界を構築する」 世界を構築する、か。余計に分からないじゃないか。彼の真面目な顔に言ってやりたいけど、面倒だし、黙って頷こう。 「よしよし、これでお前との間に偏見の前提であり、正しさを突き詰める訳ではない、そう共通の認識が出来た」 うん。 「じゃあ別れの定義だ。別れは人と人との交流がなくなる、或いは減る、で良いな」 うーん、取り敢えずその前提とかは呑み込むけど、どんな関係なら別れが成立するの。 「ああ……そうか。この前提だと親しい間柄か会う頻度が高い輩を想定しているな。これでは道端で出会ったりと、随意な即興は別れにはならない。別れを広義とするか狭義とするかで、お前の認知が激変するか」 うん、まあそうだね。 どうでも良いや、なんだか凄い長くなりそうだなあ。
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