一人称がない蝸角な世界

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「広義的に解釈すれば、無知の無知は別れにはならない。無知の博識であれば別れになる。お前が分からないようだから、改めて言えばな……知らない事、つまり知覚外が別れにはならない」 そんなに阿呆面していたんだろうか。なんだか嫌だな。 うん、そうなると、未満は出会いで、超過が別れって流れになるね。 「そうだ。本題に戻るが、本来の別れは別れ方の正しさを言っている。本来と言うのだから、通例であった別れ方が廃れ、または歪曲して広まっている。であるならば、本当の別れは別れの本質に付いてだ。経緯と結果ではなく、主観的な認識の払拭が共通点だな」 主観的な認識ね……、俯瞰して見ろって言う奴だよね。 「ああ」 本来の別れは外面に厳しくて、本当の別れは内面に厳しい、かな。 「そうだな。本当の別れ、一般常識に準えた別れの知覚がかほども浅はかで、傲慢で、いかに無知であるか。なにをもって別れと誤認し、語弊を生み、誤解し、盲者たるか……」 冷たそうな珈琲を飲み、目が向く。目線が重なって、反らして待つ。缶珈琲が机に戻った音がする。 「話は変わるがな、お前は人は好きか」 え、だいっ嫌いだけど。 「だろうな」 なんで納得するの、そこで。 「お前がこれまでに知った人間の奥は、全て間違いではない。どす黒く、救いようのないもので、殊更に愛せぬ人間が、愛して欲しいと宣うのだから。いわんや、嫌うのも分からないでもない」 ああ、そう。 「一つだけ教えておく、お前が嫌いだ」 こっちの台詞だよ。 「お前の台詞でもあったな」 げらげら笑ってくるから、嫌いだ。 「お前の目だけが笑う方がな」 ふん……どいつもこいつも……。苛立って、頭を掻き、机に足を乗っけて人差し指で耳を塞ぐ。瞼を閉じて、無視した。そうしていると、少しだけ、分かった気がする。 そうか……、こうすれば長話は終わるって奴か。
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