例えばこんな須手田望賞

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「何か食べるか」 「いえ…」 「…粥を頼もう。薬を飲むにも胃に何か入れる必要があるだろ」 「…はい」 返事をするのも怠くて、はいといいえくらいしか言わなくなった俺の額に会長の手の甲が触れる。 「少し時間がかかるだろうし、それまで寝ているか」 「はい…」 (触らないで…) そんな些細な接触でさえ、胸が苦しくなるのに グイッと持ち上げられる体はこの感覚を既に覚えてしまっている。 (すぐそこなのに…) ベッドまで運ばれて、薄手のブランケットをかけられる。ぼんやりと意識が遠のいていく。 額や頬に触れる感覚が気持ちいい。熱すぎずでも冷たいわけじゃない、会長の体温に体が反応する。 「粥を持ってきた、起きれるか」 うっすらと開いた瞼は、微かに視界を掠れさせてから数秒後鮮明に映し出す。 こくりと動作だけで返事をして、ごそごそと起き上がれば背中を支えられる。 (甲斐甲斐しいな…) どうしてこんなに優しいんだろう。優しくしないで欲しい。 「もう、」 「まあそれだけ食えれば上出来だ。薬だ、飲めるか」 美味しいお粥と、薬を2粒飲んで、俺はもう一度床に就く。濡れたタオルが額と首元に添えられて、ひんやりとした感覚が気持ちいい。 「熱中症だろうが、少し熱も出てきてる。暑いからってあまり体を冷やさない方がいい」 ブランケットを掛け直されながら、そんな声が遠くで聞こえた。 そんなはずはないだろうに、会長はどこか病人の看病に慣れている風だ。
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