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俺と『ペット』の関係を会社の人間が知っているわけがない
だけど、俺以外の人間の口から
『ペット』の話が出てくると焦りが止まらない
動揺しているのがバレないように
鞄の中から、強烈なミント味のガムを取り出した
本当はあまりこのガムが好きではない
舌はピリピリして痛いし、これを噛んだ後で『ペット』とキスしたら、辛いって文句を言われた事があるからだ
でも、今はそんな味さえ救いだった
南九条の口振りから、彼がとても
『ペット』の事を心配しているのがわかり、体の奥からどす黒い感情が沸き上がってきた
だけど、この感情がガムを噛めば噛むほど、優越感と安心感に変わっていった
『ペット』の事を知っているのは俺だけであり、俺は周囲の目を欺くほど完璧に『ペット』を閉じ込めている事が出来ている
南九条も含め、会社員全員、『ペット』は行方不明になったとしか知らない
こんな風に、徐々に真実が妄想に埋もれていってしまえば『ペット』の居場所も、彼の存在感さえも消えていく
そうなれば、『ペット』は俺にすがるに決まっている
俺なしじゃ生きていけない体になっていくんだ……
夢にまで見た現実が近づいてきた
だから、俺は必死にガムを噛み感情や
ニヤツいてくる表情を抑えた
もし、俺が『ペット』を鎖で繋いでいる事が周囲にバレたら俺は警察に捕まってしまうのだろうか…
ただ好きな人を側に置いておきたいだけなのに?
誰にも奪われたくないから閉じ込めているだけなのに?
俺がしているのは、大切な物を奪われないように守っている防衛本能的な事に過ぎない…
そう頭では思っていても
「なあ、ちょっと良いか?」
久世隼人、行方不明事件の仮説をあれこれと語る南九条の話を切り上げさせようとするのは、自分でも自分が異常だと気づいているからなのか…
だけど、そんな良心は
あいつの姿を見た瞬間に消え失せた
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