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所詮、『ペット』を思う気持ちで俺の右に出るものは居ない
あれから、南九条の口から『ペット』の話が出てくる事は無かった
これで、俺以外に『ペット』の事を気にかける奴が居ないと思うと清々したが
『ペット』の机を愛おしそうに見つめる女に俺の視線は釘付けとなった
その女は見つめるだけでは物足りなくなったのか、『ペット』の机をゆっくりと指で撫でた
未練がましくも、薬指にはまだ銀色に光る指輪が……
「伴さん、ちょっと良いかな?」
俺の声に、びくりと肩を震わせたが
「はい、今行きます」
直ぐに笑顔に戻り、伴有紗が俺の元へと駆け寄ってきた
「次の会議の資料なんだけど…」
「あっ、すみません。その件についてなんですが、先程部長が…」
彼女を『ペット』の机から引き剥がす事だけが目的だったため、彼女の話など全く頭に入ってこなかった
いや、もしかしたら俺の視線は
忌々しい指輪ばかりに集中していたのかもしれない
その事に気付いた伴は、
「久世君、一体どこに行っちゃったんだろう…」
神に祈りを捧げるように、左手で指輪を撫でた
それを見た瞬間に、彼女の薬指ごと切り落としてやりたくなったが
「あのバカ隼人
こんなに可愛い恋人を置いてどこに行ったんだよ」
「浩人さん…」
「おれだったら、大切な人にこんな悲しい思いなんてさせないのに…」
必死に大きな瞳から涙を流すのを堪えている彼女の頭を撫でた
すると、強がっていた鎧がボロボロと剥がれたのか涙を流し、「久世君」と弱々しく呟き、俺の肩にもたれてきた
……ああ、このままこいつの髪を鷲掴み、床に男に媚びている顔を叩きつける事が出来たらどんなに幸せだろうか
恋人が突然、失踪した可哀想な彼女を宥めながら
俺は頭の中で、どうやって伴有紗を消そうか考えた
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