第1章

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 ちょっと飲みすぎたような気がする。  顔に当たる風が気持ちいい。  結婚を決めた以来白井は終電に間に合うよう帰る。前は何軒も引っ張り回されて辟易したものだったけれど、今はちょっと懐かしい。  ふと気が付くともうマンションの前だった。  宮倉がどういうつもりであんな嘘を吐いたのかはわからない。けれど今日白井と話して周囲に自分の性癖と宮倉を好きな事は知られていないと分かった。  良かった、本当に。  これで仕事、続けられる。  自分の稼ぎには贅沢すぎる自分の住まいを見上げる。  いい生活をしていると思う。  仕事もある。兄のように家業を継いだわけでもなく、自由気ままにやっている。生活を人に干渉される事もない。不自由は、何もない。  かろうじてベランダの外壁が見える。誰もいない、暗い部屋。  ぐにゃりと視界が歪む。  何の不満のないはずなのに、何でこんなにつらいんだろう?  何で胸がすっとしないんだろう?  ちゃんと考えれば分かるだろうけれどもう考えたくない。  辛くても、すっとしなくても、ずっとその状態ならそれが普通になる。  何もかもぐちゃぐちゃに丸めてゴミ箱に捨てる。  明日から違う自分になる。 ぐずぐず考えて、寂しくなる、弱い自分じゃない、一人でも真っ直ぐ立ってられる強い人に。  そう出来る、きっと出来る。 もう忘れようと思った。自分以外に誰も知らないあの日の事と、宮倉を好きだった自分も。
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