第1章

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 今回語学力で秀でている宮倉が付いているが、山下も進んで協力してくれている。  忙しいのは有難いことだ。  考えたくないこと、考えたくないのに一時も忘れられないことを棚上げに出来る。  しかし松浦にとって今の状況は胃が痛いものだった。  「すみません、ミネアの最新のことなんですが……と、」  ノックと、扉が開くのは同時だった。  ノックする意味がないんじゃないかと思いながら扉に顔を向けるとノブを握ったままの海外営業部、桜井がキョロキョロと部屋を見回していた。手には分厚い企画書を握っている。  「あ……、すみません、宮倉さんはまだ戻ってないですか?」  宮倉と聞いて視線が下がる。  「ええ、まだ出てますよ。それ預かっとく?」  デスク脇に立っていた山下が桜井の元に進みながら手を出した。  「ああ……、じゃあこの付箋の箇所を確認してもらいたいと伝えてください、それで……」  二人の会話を聞きながら、きりきりと痛み始めた胃の付近をさする。  身体ごと窓を見ると回転椅子がキイと音を立てた。  昼間にしては暗い、今日は夕方から雨が降ると予報が出ていた。  曇天はまるで自分のようだ。  山下の言う通り社員旅行のあとから食欲が湧いてこない。というより胃が痛くて食べられない。  こうやって海外営業部職員が出入りするようになってさらに悪化している。特に海外営業部の人間と宮倉が話しているのを見ると吐き気がする。  見なければいいのだけれど、気になってしょうがない。  飲み物や栄養剤で何とか持っているが、そろそろ限界だと思う。  体重の減少もそう。だけど、精神の方がもうもちそうにない。  会う人みんな、疑っている。  自分の何を、どこまで知っているのか。
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