第1章

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  白井と山下の雑談を聞き流しながらデスク上の書類を手早に揃えていると強い視線を感じて顔を上げた。  無意識に、いや耳に入る声が過去の職場そのものだったせいで気安く顔を上げてしまい、酷く後悔した。目があったのは宮倉だった。  もともと眼光鋭い宮倉が睨むようにこちらを見るので腹にぐっと力が入った。背筋が凍る。忘れようと必死に胸の奥底へしまい込んでいた出来事が肌の表面を震わすほどはっきりと蘇って血の気がざっと引くのが自分でも分かった。 目が離せずにいると宮倉の鼻頭に皺が寄りふっと目を反らされた。  二、三秒そのまま動けなかった。 あれから、普通に、仕事だと何度も自分に言い聞かせ、山下、瀬戸と変わらず接してきたつもりだ。でも、……宮倉の顔は見ることは出来なかった。 久々に見た顔はよくここで目にしていた無表情ではなくあの時の、あの目だった。 あの時見た、宮倉の目、自分を触った手の感触、唇を割いた舌のねっとりとした動き、身体を割く痛みと潤み、初めて知った高揚と悦楽。身体に感じた他人の熱。 宮倉の顔が、目が、自分の視界に焼き付いて離れず蛇に睨まれた蛙のように固まっていた松浦を呪縛から解放したのは白井と山下の大きな笑い声だった。  はっとして前を見ると二人が手を叩いて笑いあっていた。  ホッとして、落胆した。
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