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「丸ごと独立して、別会社をつくることになったのよ」
こともなげに藤井は答えた。
本社総務部へ異動になっていた藤井は、映子を休憩室に呼び出した。
「独立、ですか」
驚くことに円満退職なのだと、藤井はまるで自分の手柄のように言った。
「どう根回ししたのか、想像もつかないけどね」
あの9名。
蝉女にベテランデザイナー、他にも。
羽振と寝た5人の女と、4人の寝ていない女。
まさかの、ハーレムエンド。
「欧米ではチームごと独立とか、別の会社に移籍なんてよく聞くけれどね」
映子は藤井に聞かずにいられなかった。
「藤井さんは、なんで行かなかったんですか」
藤井は答えず、映子に逆に問うた。
「あなたこそなぜ行かなかったの?
あれ程羽振に気に入られていたのに」
映子には藤井の赤い縁の奥の目に、理由の分からない強い光が見えた。
その問いは映子を2か月間悩まし続けていたものだった。
一番認めたくなかった答え。
あのまま一緒にいたら、きっと自分は羽振に本気になってしまう。
映子は笑って答えた。
「わたしは、ゲームには向かない女なんです」
終
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