コインロッカー

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例えば、親に迷惑がかかるから嫌なことを言われても我慢するというのは美談な気がする。それはいいことだ。捨て子の私を育ててくれたのだからそれに対する恩義を重んじることは必要なことだろうけれど、私はそういったことが嫌いだ。感謝しているし、恩返ししたいと思うがきっっぱり、あのクソジジイとの関係はどこにでもある親子でありたいし、これは理屈であって感情じゃない。感情は別だ。 「…………え?」 ボス犬女が呆けていた。鉄製の筆箱が顔面に叩きつけられたと気がついた時には視界が真っ赤に染まっているだろう。取り巻き共が悲鳴を上げつつ、離れる。私はその隙間をぬって行き、ボス犬女の頭を鷲掴みにする。  「メンテナンスしてやんよ。他人を見下すその役立たずな脳みそをさ」 悲鳴が聞こえたけれど、ためらうことはない力一杯、机に顔面を叩きつける。ゴンッと嫌な音が響きわたりボス犬女の呻き声が漏れる。ポケットからカッターナイフを取り出して、カチカチと耳元で音を響かせながら髪の毛を引っ張って持ち上げる。 「なぁ、臭いんだろ? だったら、そよ鼻、いらないよなぁ。削ぎ落としてやろうか? 痛いだろうし、辛いだろくけれど、私のような溝鼠の臭いを嗅がなくていいならそのほうがいいだろ」 カッターの切っ先を鼻の穴の当てて、横に一線、引く。ツーッとカッターの刃が鼻の下を切り裂き、血があふれ出した。悲鳴が聞こえ、嗚咽をもらした。 「お前さぁ、不幸な人間にならなんだって言っていいとか思ってんのか? 不幸な人間は後ろ指をさされながら奥歯をかみしめて生きろってわけか、たかだか運良く裕福な家庭に生まれただけの小娘が偉そうだなぁ、ああん!?」 「……やっ、やめて、やめてよ、痛い、カッターを離して、血、血が、血が出てる」 「ああん!? 血が出てる? この程度で泣くなよ、刺されるってのはもっと痛いんだぞ。試してみるか? そうすれば不幸な人間の痛みってやつが少しくらいわかるだろうさ、このクズッ!!」 ドンッとボス犬女の背中を蹴り倒す、その際にカッターナイフを手元にもどす。机が薙ぎ倒され、ボス犬女が無様に倒れ、ほうぼうのていで逃げ出すが、別に逃がすつもりはない。ボス犬女は、犬らしく四つん這いにさせたかっただけだ。傷口から溢れた血液が床を濡らす。 「きったねーなぁー、犬みてーに這いつくばってさぁ、もっとキャンキャン鳴いてみろよ!! おらっ!!」
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