コインロッカー

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別に美容を使っているわけじゃないけれど、老けていると言われて笑って許せるほど私の心は広くない。 「お前、友達いないだろ?」 「いえ、いますよ、根暗、陰口、陰険、毒舌と奇特なニックネームをつけてくれる友達がたくさんいます」 それ、友達じゃなくて、いじめっ子だろうとは言わない。いじめのんて、どこにでもあるものだ。根絶やしになんてできない。 「ふーん、そっか、そっか、私は友達なんて居ないからうらやましいよ。昨日なんてみんなで私をいじめられたんだぜ。泣きたくなったよ」 「ご愁傷様です。涙を拭くためのハンカチはありませんが、いじめられっ子の女子高生というニックネームをあげましょう」 いらねーよ。 「ありがとうよ。中学生、ネーミングセンスなしの中学生ってニックネームをお返しにあげるぜ」 「いりませんし、長いですよ」 「そりゃそーだ。なぁ、中学生、お前さぁ、自分のこと好きだと思ったことある?」 「はい? 貴女がナルシストだとわかりますが、自分を好きなのは普通なのでは? 自分を好きになれて他人を好きになれるんですから」 中学生は笑う。 「なんて言うと思いました?」 「違うのかよ。名台詞が台無しじゃないか、いいと思うよ。自分を好きになることで、他人を好きになれる」 でも。まぁ自分のことが好きになることができない人間はいったいどうすればいいんだろうなとはさすがに聞けなかった。こうして話が弾んではいるけれど、彼女とはほとんど初対面だ。 「自分のことを好きでいて、他人を好きになっても、他人は自分のことを好きになってくれなければ意味がないじゃないですか。好きになって他人のために自分を変えるなんてめんどくさいですしね」 「ひねくれてるなぁ、中学生、ま、私はきらいじゃないぜ、順調にひねくれて、そのまま引きちぎれてしまえ」 「いえ、ひねくれて、そのまま一回だけ回転して、くるりと回って真人間になれる気がしますけどね。真人間なんてなれる気がしませんけど」 「いい加減だなぁ。そのまま貫けよ。ま、真人間になれるとは思えないな、周囲はそれを許さないさ、他人はそれを認めない、一度でも道を踏み外した奴はもう正しい道に戻れたりしないんだからな」 「実感がこもった言葉ですね。参考にはしませんが、もう手遅れな気がしますし」 「だな、おまえも、そして私も」 「私を同類にしないでください」
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