コインロッカー

9/12
前へ
/13ページ
次へ
異常に気がついたときにはもう、誰もいなかった。中学生の女の子と暇つぶしの会話をしていたら誰もいなくなっていた。定員も、客も、誰もかも、音すら聞こえなくなる静寂の中で、中学生はニヤリと口元を歪めて笑い、アナウンサーが記事でも読み上げるように言った。 「質問でぇーす。因果応報ってどういう意味でしたでしょおーかぁ?」 「はっ!? 意味……」 わからないと言おうとしたが、顔の横をものすごい勢いで何かが突き抜けていく、それはナイフ、中学生はニヤニヤと笑いながらナイフを私の顔面、めがけて突いてきた。ためらいのない動作に冷や汗が流れた。 「ダメじゃないですかぁ、ちゃんと答えないと、正解はー悪いことをしているといつか仕返しされちゃいますよって意味でーす。キヒッ、キヒヒヒヒヒ、お姉さん、とってもビビってるー、どう? 強者から弱者に転がり落ちる気分は、さいっこーに気分悪いでしょー?」 「そうね、そうかもしれない、でも、気分が悪いのはあんたみたいな、ガキになめられてるってことよっ!!」 トレイをひっくり返し、中学生に投げつけて視界を塞ぎつつ真横をすり抜けようとするが、中学生の気味の悪い笑い声が聞こえ、目の前に拳が迫り顔面を殴りつけた。 「キヒッ、キヒヒヒヒッ、そうくると思ってたましたよー、片方はナイフで塞ぎ、机を間に置いて向かい合うように座ってるんですからぁ、退路は一つしかないでしょう?」 「解説、どうもありがとう、でも、ペラペラしゃべる奴ほど、あとで痛い目に合うって知らない?」 もう一つのトレイを掴む、顔はジンジン痛むが動けないほどじゃない、トレイを掴んだ手をそのまま中学生へ叩きつけ、ナイフを持ったほうの手を狙おうとするが、キヒッと笑い、殴ってきたほうの手にナイフがあった。私は舌打ちしながら距離をとろうとするが中学生は片方のナイフを投擲してくる。頬をかすめ血が溢れ出し、驚いた瞬間を狙い撃ちにされた。腹に何か熱い物が侵入してくる。ゴホッと口から血液が吹き出し、視界が揺らぐナイフを片手に持ち、尻の部分を押すようにして笑う中学生の顔が見えた。 刺された、そう感じた。因果応報? なんだそれ、私は、あいつらにバカにされたからやっただけだ。家のことも、クソジジイのことも許せなかったそれだけだ。 クソジジイは生きているだけで幸せだと言うだろうけれど、私は違う、そんな理不尽を認めたくない。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加