錯覚

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藤森との『おやすみ』を 今まで二度は言えずに後悔した。 今日は三度目の正直だった。 丁寧に敷かれた布団に寝そべり、頭の下で腕を組みながら、薄暗い部屋で天井を見上げた。 仕事に追われる毎日から解放され、他人の家だというのに、この温かい空間で心身共に安らいでいた。 藤森はさっき確かに言った。 『…私だって成瀬さんのために何かしたいの。』 なあ… それなら… これからの毎日、 あのカウンターからでいいから、 俺にお前のその笑顔をくれないか? そして、そこに、 他の奴らに向けるのとは違う 俺へだけのほんの少しの"特別"を付け足して。 お前が応援してくれたら、 今度の勝負もきっと決められる。 俺は今日、今、 確信した。 今まで何度も自問自答してきたが、 これは… …錯覚なんかじゃない。 俺は お前が 好きなんだ。
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