錯覚

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週が明けて、会社のロッカールーム。 朝の着替えを済ましたところ。 この会社は社員に制服はないけれど、受付の私たちには服装が決められている。 黒のスーツに黒のスカート。 白のシャツに、スカーフ。 ま、今は夏場だから黒のベストなんだけど。 スカーフもしていない。 私はシンプルなネックレスをいつも着けている。 決まってるから、逆に楽なんだよね。 だから、ゆいのこと考えると大変そうだなって思うわ。 着替え終わって、鏡を見ながら髪を整える。 そして、ロッカーの隅の小さな紙袋に目を向ける。 『お前にやるよ。』 結局、 ずっと返せなくて、 成瀬さんからもらうことになっちゃった。 私は紙袋からタオルを取り出し、それに顔を押し付けた。 洗濯しても、なお残る、 成瀬さんの匂いを まるで… …探しているみたいだった。 …何やってんの? …馬鹿じゃない…私…。 タオルを乱暴に紙袋に戻し、 ロッカーの扉をバタンと勢いよく閉めた。 私はまるで逃げるように、ロッカー室を足早に出ていった。
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