帰宅

3/4

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
宇宙人や幽霊等の類いは存在しないと考えていたが、どうやらそれは間違いだった。 先程、彼女の体を確かに自分の腕が貫通したのだ。手品などではなかった。強制的に信じさせられたのだ。 女の子は高校生くらいだろうか、まだ幼さが残る顔で、髪の毛は黒。肩にかかるくらいの長さだ。背も標準なのだろう、大きすぎずも小さすぎずもない。総合的に中の中と言っては失礼に値するのだろうか。 「あ、あのっ、私、温田恵といいます。」 タイミングをみていたように自己紹介をした。そういえば、まだ名前を知らなかった。 「俺は高倉進。大学生。独り暮らし。そっち、…温田さんはどこに住んでるの?送っていくよ。」 既に死んで、さまよっている幽霊に何の危害が及ぶというのか、自分で言って想像もつかないが、女の子を夜一人で帰すというのは駄目だろう。隣町くらいなら自転車でそう時間もかからない。 「それが…家、分からないんです。探してもみつからなくて。それで、…………歩き回っているうちに、何も覚えていないことに気づいたんです。」 恵は俯いた。覚えていない家を探していくら歩いたかもう覚えていない。歩けば歩く程帰るべき家から遠退いていっているような気がした。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加