第一章 目覚め

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ちょうどそのころから紗江理の研究は波にのり、成果が認められて新薬開発のサブリーダーに抜擢された。 しかし芳人はというと、 可愛がっていた後輩に出世を先に越されてしまったらしく、プライドが傷つけられ、ボロボロだった。 できる彼女ならそんな状況の彼の話を聞き、彼を支えてあげる……のがセオリーなんだろうが、残念ながら紗江理はいい彼女にはなれなかった。 研究が楽しくて楽しくて仕方なかった。 その日に得られた成果をベラベラと無神経に彼に話していた。 始めは、芳人もうんうんと優しく相槌を打ちながら聞いていた。 が、しかし。 酔いが回ると、芳人はだんだんと耐えられなくなり 「紗江理は自分のことしか話さないよな!」 と突然大声をあげた。 それまで彼は紗江理に対し怒りの感情を表に出すことは一切なかった。 だからその時、紗江理は本当に驚いた。 「…ご、ごめんなさい」 「いや、俺も、怒鳴ったりして悪かった」 眉間を押さえながらうつむく彼を見て、紗江理はひどく後悔に襲われた。 「ごめん、俺、今日は帰るわ」 そう言って遠くなっていく後ろ姿は、人気者だった頃の面影などなく頼りなかった。
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