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「あ、また先輩苗字で呼びましたねー。奈菜って呼んでくださいよー」
ブゥと唇を突き出し不満を口にする彼女はとても愛らしい。
彼女は”猿渡”という珍しい苗字が嫌いらしく、必ず出会った人には、下の名前で呼んでくれと言った。
彼女の口癖は
はやく結婚して苗字を変えたい、だ。
「あー、ごめんね、奈菜ちゃん」
紗江理は適当に謝罪した。
下の名前で呼ばれ満足した猿渡奈菜は、背後から画面を覗きこみ
「プレゼン完成ですか?」
とたずねてきた。
「うん、なんとかね」
「先輩、言ってくだされば私も手伝ったのにー」
モミモミと紗江理の肩を揉みながら、彼女はそう口にする。
「ありがとう。……じゃあせっかくだからチェックお願い。わかりにくいとことか、見にくいとことかあったら教えてくれる?」
紗江理はUSBにデータを移し、彼女に手渡した。
「はい!」
彼女はビシッと敬礼のポーズをとると、自分の席に戻り黙々とチェックを始めた。
彼女は普段は明るく陽気なキャラだが、研究に対する態度は至って真面目である。
紗江理が担当するプロジェクトにはなくてはならない存在だ。
入念なチェックを終えた頃。
会議開始20分前。
「よし、行くか」
紗江理は、少し乱れたポニーテールを縛り直し、成果報告会議が行われる第二会議室へ向かった。
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