第一章 目覚め

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確かに、普段の紗江理だったら恋愛に関する話はしなかっただろう。 しかし 今日はプレゼン準備で疲れていたからだろうか。 それとも 先ほど菜奈に欠点を指摘されたからだろうか。 不安に思っていたことが、口から滑り落ちるように出たのだった。 昨日のデートをすっぽかしてしまったこと。 それが今回が初めてではないこと。 少し結婚に焦っていること。 でも、芳人と結婚するのは、どうも気が進まないこと。 「結婚かぁ。難しいところですよねー」 奈菜は、紗江理の話にうんうんと相槌をうち、真剣に聞いてくれた。 紗江理は、ほんの少しだけ心が軽くなった気がした。 ふと何気なく紗江理が壁時計を見ると、休憩時間が残り15分をきっていた。 「あ、こんな時間、そろそろ戻らないとね」 立ち上がった紗江理は菜奈を見ていった。 「……菜奈ちゃんありがと、少し楽になったよ」 紗江理の口から素直な言葉が出た。 「いえ!私でよければいくらでも聞きます!今度、飲みに行きましょうね!」 菜奈は可愛らしい笑顔でそれに答えた。 会計を済ませてカフェを出る。 二人の目の前には大学生らしきカップルが手を繋いで歩いていた。 カップルの後ろ姿を見ながら、菜奈はぼそりと言った。 「……でもいいなぁ、先輩は彼氏がいて。私、もう2年もできないんですけど…」 「え、意外、モテそうなのに」 「高学歴高収入の女ってあんまり好かれないんですよね……最近、合コンも街コンも収獲なしですよ」 とぼやいた。 こんなにかわいい子がフリーだなんて…… 世間の若い男たちは一体何をやってるんだろう? 若者の草食化が進んでいるというのは、どうやら本当らしい。 私たちの世代の男は若い頃はもっとガツガツしてたのにな。 時代は変わるんだなぁ。 そんなことをボンヤリ考えながら、紗江理は秋空を見上げたのだった。
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