77人が本棚に入れています
本棚に追加
紗江理はその日残っていたデータ整理を終えて、パソコンの電源を落とした。
時計を見ると、5時半だった。
こんな時間に帰るのは、何日ぶりだろうか。
バッグを持って立ち上がると、
「お疲れさまです!」
斜め前の席に座っていた菜奈が、首を伸ばしてこちらを見ていた。
にこりと笑うと、紗江理は研究所を後にした。
さすがに手抜きメイクで彼氏に会うわけにはいかないので、急いでマンションに帰り、シャワーを浴び、入念にスキンケアを施した。
クローゼットからお気に入りのワンピースを取り出す。
今日はこれにしよう。
ここ最近は、もっぱらパンツスタイルだったので、久しぶりに女性らしい服に身を包んだ自分に、紗江理は少し戸惑った。
紗江理は集合10分前に到着した。
いつもの約束場所とは駅前の本屋である。
紗江理も芳人も読書が好きだったのと、
どちらかが急用で遅刻することになっても退屈せず待てるように、本屋を集合場所にしていた。
まぁ、毎回のように待つことになるのは芳人だったが。
紗江理が時間に余裕を持ってやって来たのは本当に久しぶりのことだった。
レジ近くの新刊コーナーに立ちよると、昔からファンの作家の新刊が並んでいた。
最近、小説読んでなあなぁ。
読むとしても、論文とか、研究書ばっかりだし。
紗江理はその文庫本を手に取った。
紗江理は昔から推理小説が好きだ。
登場人物とともに、文章中の伏線を探し推理しながら読む。
とくにこの作家は紗江理のお気に入りだった。
非常に緻密なストーリー構成と独特の世界観が魅力だ。クライマックスには、毎度のこと驚かされる。
やっぱ、おもしろいなぁ。
5ページほど読み進めたころ
トントンと肩を叩かれた。
最初のコメントを投稿しよう!