第一章 目覚め

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しぶしぶ電話の着信履歴をみる。 これも案の定、履歴はすべて芳人だった。 留守番電話サービスには3件メッセージが入っていた。 聞きたくないな…… しかし無視するわけにもいかない。 紗江理は再生ボタンを押し、恐る恐る携帯を耳に近づける。 『実験が忙しいなら、連絡よこせって何度も言ってるだろ? いい加減にしろよ! 約束すっぽかしたの、これで何回目だと思ってるんだ?』 普段は優しい彼が、電話越しに声を荒げていた。 約束を忘れてしまってた私が悪い。 すぐに謝らなければ… 紗江理がメッセージの再生を止めようとした時だった。 『紗江理は……いったい俺と研究とどっちが大事なんだ?』 彼は、最後にそう吐き捨て、メッセージは終了した。 彼の最後の言葉に、紗江理は思わず噴き出した。 呆れを通り越して、もはや笑うしかなった。 今時メロドラマでも、こんなセリフは聞かないだろう。 この男、よくもまぁこんなに女々しいことが言えたもんだなと。 どう考えても約束をすっぽかした自分が悪かったのだが、最後の一言で謝る気が失せてしまった。 紗江理は返信はせず、そのまま携帯を乱暴にトートバッグにしまった。
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