第一章 目覚め

8/26
前へ
/151ページ
次へ
紗江理と芳人は大学で同じサークルに所属していた。 芳人は紗江理の2学年上の先輩だった。 と言っても、大学時代に芳人と話したことはほとんどなかった。 ちょっとした挨拶をかわすだけ。 特別な感情は持っていなかった。 学生時代、芳人は人当たりが良く親切で話も上手だった。 男女問わずみんなから好かれ人気者だった。 人気者の先輩、学生時代の紗江理の芳人への印象はそれだけだった。 紗江理がそんな彼と再会したのは二年前だった。 医療機器メーカーで働く芳人が 偶然、紗江理の働く会社に営業しにやってきたのだ。 「あれ?もしかして土屋さん?」 最初に声をかけてきたのは芳人だった。 昼食を買おうと研究室から出たところ、紗江理は廊下で引き留められた。 「……はい?」 研究に没頭して睡眠不足だった紗江理は、目の下に大きな黒いクマをつくっていたし、生理前ということも重なってイライラしていた。 女として最悪のコンディションで出会ったのだ。 「えーと…」 誰だっけ、この人。 ぼんやりする頭で紗江理は必死に記憶をさかのぼった。 「……」 芳人は微笑みながら、紗江理が次の言葉を発するのを待っていた。 「…あ!もしかして堀田先輩ですか?」 「そう!正解!久しぶりだね、土屋さん」 ニコっと人懐っこい笑顔で答える彼。 学生時代の人気者の面影がそこにあった。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加