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紗江理と芳人は大学で同じサークルに所属していた。
芳人は紗江理の2学年上の先輩だった。
と言っても、大学時代に芳人と話したことはほとんどなかった。
ちょっとした挨拶をかわすだけ。
特別な感情は持っていなかった。
学生時代、芳人は人当たりが良く親切で話も上手だった。
男女問わずみんなから好かれ人気者だった。
人気者の先輩、学生時代の紗江理の芳人への印象はそれだけだった。
紗江理がそんな彼と再会したのは二年前だった。
医療機器メーカーで働く芳人が
偶然、紗江理の働く会社に営業しにやってきたのだ。
「あれ?もしかして土屋さん?」
最初に声をかけてきたのは芳人だった。
昼食を買おうと研究室から出たところ、紗江理は廊下で引き留められた。
「……はい?」
研究に没頭して睡眠不足だった紗江理は、目の下に大きな黒いクマをつくっていたし、生理前ということも重なってイライラしていた。
女として最悪のコンディションで出会ったのだ。
「えーと…」
誰だっけ、この人。
ぼんやりする頭で紗江理は必死に記憶をさかのぼった。
「……」
芳人は微笑みながら、紗江理が次の言葉を発するのを待っていた。
「…あ!もしかして堀田先輩ですか?」
「そう!正解!久しぶりだね、土屋さん」
ニコっと人懐っこい笑顔で答える彼。
学生時代の人気者の面影がそこにあった。
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