第52章 捕まえて

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穏やかに、そう話す彼女の横顔はよくふたりでデートをした時に見かけたものと少し違って見えた。 「父はたぶんカミングアウトを聞いて怒っていたでしょうけど。もう済んだ話にしたいの。私も」 「……」 親にぎこちない思いをさせた半分は自分だ、情けないと力なく笑っている。 もっと上手く取り止めにすればよかったのに。 それでもあの時、どうしても足が先へ進んでくれなかった。 「私はやっぱり、ホモって理解できないけれど」 「……」 「ゲイ、だったよね。ホモじゃなくて」 何も言葉が浮かばなくて、ただ笑顔を向けながら頷くので精一杯だった。 ひどく長い間、結婚式の随分前からずっと、重く鈍く、彼女を苦しめた痛み、それを与えた俺をこんなふうに受け入れてくれる。 もうそれだけで充分だから。 「もう会うことはないね」 「……」 「さようなら」 彼女は並んで歩いた道を引き返して、自分の場所へと戻って行く。 俺はそれをじっと見送りながら、謝罪の気持ちと一緒に、彼女の幸せをただただ祈っていた。 細く華奢なあの背中 その隣に寄り添うように歩いていく誰かを どこかにいる誰かを思って 見えなくなるまで、彼女を見送っていた。
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