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最寄りの駅まで徒歩で移動し、誠一は自宅への帰路についた。
スーツ姿の通勤客や学生でごった返す車両に乗り込む。
ネイビーのジャケットにベージュのチノパン。そして外泊グッズが入った革の鞄。
きちんと見えるカジュアルな洋服を着ていても、何故か自分が異質な存在に思えて仕方ない、と彼は思う。
(朝帰りしてるせいだけどな。どう考えても)
女性と付き合う上で、譲れない彼独自のルールがある。
その1。自分の部屋には絶対に女性を連れ込まない。
その2。朝食は共にせずに帰る。
その3。後腐れのないよう、相手がいる女性とは寝ない。
"ヒドイ男"
自分が不誠実な男だという自覚はある。
それでもそれなりに、一本筋は通したいのだ。
(なんて言ったら、鼻で笑われるな)
同僚達の顔が浮かび、彼はふっと微笑んだ。
"俺を置いて行かないで"
そう叫んで引き留めることも出来なかった。
"さよなら・・井上くん"
変なこだわりが邪魔をして、最後まで好きとは言えなかった。
誰かの背中を見送るのはもう二度とごめんだ。
だから本命は作らないと決めた。
―絶対に。
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