井上誠一という男

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洗濯物は部屋干しにして、11時くらいにはマンションを出る。 駅まで歩いて10分、さらに電車で10分移動し、職場最寄りの駅で降車。 駅近くにある行きつけのハワイアンバーガーの店で昼食を食べてからさらに徒歩で移動。 そして、いつも通り14時に職場に出勤すると、同僚達は開店準備を始めていた。 「やあ、誠一」 バーテンダーの明石修治。同い年ということもあり、一番仲の良い同僚だ。 「先輩、こんにちは」 ウエイターの佐々木翼。彼は今年入ったばかりの新人だ。 「今日も朝帰り?」 そう声をかけてきたのは、歌姫のケイ。 「俺の私生活潤っちゃ悪いわけ?」 本業は流しの歌手らしいが、毎日自発的に開店準備と片付けを手伝っている。 「別に、タフだなって感心してるだけよ」 「ふん、どうせまた腐った呪文で女性騙したんだろ」 すかさず突っかかって来た青年は、ピアニストの火野弦だ。 「口説き文句の一つも言えないチェリーボーイは黙ってて下さーい」 二人は性格が違いすぎて、しょっちゅう下らない小競り合いをしている。 「にゃにおう!!」 もっとも傍目からは、じゃれあっているようにしか見えないのだが。
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