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穏やかな日差しは、アーデルハート・ブランシェットの旅立ちを祝っているかのようだった。アルクルフの里を包む長い冬と鈍色の空も、今日だけは引っ込んでくれている。
腰の辺りにある熱い塊を優しく抱きしめながら「ロッコ」と幼い弟の名をアーデルハートは呼んだ。
「父さんと母さんの言うことをよく聞くんだぞ」
張りのある焦げ茶色の髪を梳いてやりながら、いつも自分の後ろをついて歩いてきていた弟にゆっくりと話し掛ける。
何度も頷いたロッコが涙でくしゃくしゃになった顔でぎこちなく笑った。
「春には戻るから、そんな顔をするな」
少し後ろに立つ両親が悲しげに顔を俯けた。アーデルハートもそれがおそらくは叶わない願いだと知っている。
ロッコを放し、両親をはじめとした見送りの人々に一礼する。その見送りの人々の中に、恋人の姿をみとめ、アーデルハートは少しだけ、気持ちが落ち着いたのが分かった。微笑を浮かべた恋人が静かに頷く。
「行こうか」
これからの旅の相棒のグロウが、アーデルハートの肩に手を置いた。
一つ頷き、アーデルハートは里の外に通じる門に向かう足を踏み出した。それは、アーデルハートにとって、黄泉路への旅立ちとほぼ同義だ。
「兄ちゃん」
此岸より呼ぶ声にアーデルハートは心が震えた。
アーデルハートが二度と振り返る事は無かった。
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