第1章

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「ねぇ、今ここでキスして」 「嫌だ。リスクが大きい上に、俺に何の得もない」 麻斗(マト)は何時も突拍子の無い事を言う。春季(ハルキ)はそんな彼女の予測不可能な行動が嫌いではなかったし、寧ろ退屈しのぎに打って付けだと考えていた。しかし放課後とはいえ、夕暮れに染まる理科準備室はいつ人が来るとも限らない。その上、右端、扉の奥には新任の教師がまだ机に向かっているはずだった。 「何よ、ケチ。杉本とはするのに、私じゃ何がいけないわけ?」 覗いてたのか。 悪趣味なヤツだな。 「杉本はそんな風に迫ってこない」 「へぇ、意外・・・アイツの方が飢えているように見えたから」 そう、初めに手を出したのはアイツ。 でも、焚き付けたのは俺だ。 「けど杉本ってさ、何か複雑だよね。表面はああ見えて、実は結構な―――」 「うるさいよ」 春季が力任せに麻斗の腕を引く。 「ちょっとッ!?」 バランスを崩した彼女を彼は器用に受け止めた。 そして頬に手をあて、目を閉じる。 視界の端に、僅かに長い影が重なるのを見た。 それは一瞬の出来事だった。 「春季の味がする」 真っ赤に染まった光を浴びて、麻斗は小さく呟いた。
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