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空(ソラ)は綺麗に組まれた杉本の足を見ていた。長く形の良いそれは、計算されたような角度で投げ出され、窓から差し込む光で、適度に磨かれた床に美しい陰影を作っている。暫くして、無口な人形はちょうど目を覆う長さの前髪を無造作に掻き揚げて、軽くため息をついた。その怠惰な仕種さえも絵になることを恐らく本人も多大に自覚しているのだろう。こちらに視線を向けることもなく、話を切り出した。
「そんなに見つめないでくれないか?痛いよ」
「・・・どうして、ですか」
「え、何が?」
やっとこっちを向いた。
空は自分さえも気付かぬうちに微笑を洩らした。
「・・・・無自覚・・・なんですね。」
怪訝そうに眉を寄せた目の前の整った顔に向けて、彼は首を横に二振りすると、白い歯を覗かせた。
「僕は、自分の顔・体、名前さえも無意味だと思っています。必要性が全く感じられないのです、特にあなたの前では」
真直ぐに視線を向けてくる空を眩しそうに眺めてから、杉本は静かに囁いた。
「私はお前の名前、嫌いじゃないよ。空っぽなんだろう?これから好きなモノを思う存分詰め込めるじゃないか。カラは無限だ。そして無限には大きな価値がある」
それなら
それなら・・・・
「・・・・・・・・あなたを」
絞り出した声は小さく反響して急速に拡散し、よどんだ部屋の隅にまで到達して、霧散した。
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