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かち、かち、かち、かち、
時計の針が時を刻む音しかない、寂然と夜に呑まれた部屋の中、ベッドの上に縦に丸まった布団が置いてあった。それは壁の隅に設置されており、時折、もぞりと動いた。
中に人間が入っているのだ。
かち、かち、かち、かち、
――大丈夫…大丈夫…。
白いタンスの上に置かれたぬいぐるみを見れば女性の部屋と容易に想像がつく。勉強机の上にはブックスタンドで整頓された教科書や参考書が整然と並んでいた。整理整頓され、小物も散らばっていない小奇麗な部屋。一見、綺麗好きな人間が使っている部屋だろうと思えるその中に、一つの異物があった。
壊れたガラパゴス携帯である。
折り畳み式のその携帯電話は逆方向に折り曲げられ、そこから覗く赤や青の細い配線がボタン操作の板と液晶画面の板を繋いでいる。しかし何かに打ち付けられたのか放射線状に亀裂が刻まれ、画面は何も映し出せそうに無かった。その隣では一刀両断されたUMIカードと、暴行にあったらしい四角の電池パックが倒れていた。鋏で切断でも試みようとしたのか縦に傷が刻まれていた。
それが、何も置かれていない勉強机の上に、無造作に打ち捨てられていた。この部屋の様子をみればゴミの存在などゴミ箱の中にしか許されないであろうこの部屋に置いてあったのだ。
かち、かち、かち、かち、
――携帯電話を壊したんだもん…来ないよ…絶対、来ない…!
どう見ても使い物にならない状態にまでなっている携帯電話に彼女は強い不安を覚えていた。
。
再び、布団がもぞりと動いた。
布団から顔が浮き出たのだ。銀製品で出来た猫のヘアピンで前髪を上げている。
そしてその視線は机の上の壊れた機械の塊へ向けられていた。
もうすぐ、十二時。
あと、十秒を越えれば『次の日』がやってくる。
かち、かち、かち、かち、
――『次の日』が…。
かち、かち、かち、かち、
――ユウキ君がくる『明日』が…――。
かち、かちっ。
女性の目は、勉強机の上で光を部屋に投げ出した携帯電話に釘付けになった。
ぴりりりりり。
壊れた携帯から、無機質な着信音が鳴く。背面ディスプレイが光り、壊れた液晶画面がメールの着信を表記した。
目玉が飛び出んばかりに見開き捉えた光景は、『常識』を打ち砕く。
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