第1章

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 グッタリして終電過ぎの帰宅。誰も居ない部屋 洗濯待ちのYシャツが、ハンガーに並んでいる。 その一つ。袖口からだけ手が出ていた。  自宅から駅で二駅隣に、俺が勤めている小さな 某デザインオフィスがある。仕事について細々と 話しても余り関係ないと、多分思うから大まかに。  まず数人しかいないオフィスで、社長を除けば 俺が一番、自宅から近い。実際は早足で歩くと、 一時間も掛からずに帰宅出来てしまう。だから、 残業は終電過ぎ、徹夜が多いのでタクシーだ。 歩かないから、足腰を鍛えないとって反省する。  炊事、掃除、洗濯が嫌いなわけじゃない。でも 眠る時間の方が優先だった。と、そう思っていた。 でも、そういうことじゃないのか。仕事は好きだ。 だからといって、何を置いてでもって程でもない。  物事には程ってモンがある。やり過ぎは毒だよ。 呑みすぎ、食いすぎ、だらけすぎ、根の詰めすぎ。  ああ、そう言っていたのは、大好きだった祖父。 もう何年もお墓参りにも、行っていない。 「程って、どのくらい?」  確か小学生くらいだったかな。そう訊いたはず。 祖父は快活に笑って、俺にくれた蜜柑を指差して、 「オマエは、蜜柑は好きか?」と言ったと思う。 何せ昔の事だ、うろ覚えだ。  もちろん大好きだったから、お爺ちゃんのも 剥いてあげるよとか言ったと思う。祖父は笑って、 「ありがとう。だが、もう充分だ。」って言った。 まだ、三個しか食べてないよ。って言う前に。 「それが程だ。」と言われた気がする。 「どんなに好きでもな、食いすぎれば美味しさや ありがたみが弱くなる。感謝も弱くなる。 当たり前に感じるようになってから、もう二度と 食べられないと思ったら、悲しいだろう。」 「どうしたらいいの?」 「程を憶えるんだな。皆、爺ちゃんも婆ちゃんも 父ちゃん母ちゃんも、それぞれに程がある。 程を知っておけば、何でも大事にできるかもな。」 「どんくらいが程なの?」 「お月様ってのは満月だとでっかいし奇麗だ。 でも、次の日からは欠けていくだけだ。 だからって、三日月の奇麗さはあるだろう。  遠足で山登りに行ったりするだろう? 行くときは楽しいな。頂上でお弁当を食べて ヤッホーって叫んだりして。でも、頂上からは、 山を下りるって事しかできないな。それも 悪くはないんだが、少し登るより寂しくないか。」 「うん。」
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