第1章

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「蜜柑はどうだ?もうちょっと食べたいなって 今、思ってるだろ。でも、それでお腹が満足したら 蜜柑が食べたい時間が減っちまわないかい。」 「それが程?」 「まぁ、それが程なのかハッキリは判らないんだ。 人それぞれの程だからな。そこで昔の人は程を 八分目と数えたんだ。」 「はちぶんめ?」 「十個の蜜柑があっても、八個で我慢して二個は お宝として取っておくんだ。ご飯もそうだ。 満腹におかわりする。その少し手前が八分目だ。 腹八分目に薬はいらぬって、よく言ったもんだ。」 「なんで少し足りないの?」 「昔の人は家を建てる時、完全に作ってしまうと そこからは、壊れていくだけなんだ。 山を登ったら、下りるしかないのと同じだな。 わざと完成させない。それで長く大事にできるよう おまじないをかけるわけだ。」  そう言えば祖父は大工さんの棟梁だった。 田舎の家には沢山の職人さんがいつも来ていて。 神様のように祖父を尊敬して、慕っていた。  俺には信じられなかったんだけど、職人さんの 一人がゴツゴツした手で、甘栗と干し柿をくれて。 坊ちゃんとこの親方はなぁ、物凄い偉い方なんだよ。 この町で一番恐い人で、この国で一番強い人だ。 大事に孝行しなくちゃいかんよ。って。  俺が祖父の恐い所は一回しか見れなかった。 道に迷って日が暮れてお巡りさんに保護されたとき 親父より先に怒られたんだ。自分の命をおろそかに するようなクソ馬鹿に、親孝行ができるもんかって。 引っ叩かれたのも、最初で最後だった。  まぁ、それ以後は頭の形が変わるかもなって程に 親父に殴られるようになったけど。ありがたいや。 コブやアザにならない加減、つまり「程」を、 親父も祖父から教わったんだろうな。  とにかくだ。  そんな風に言われて。とても誇らしく。嬉しくて。 祖父がヒーローみたいに、かっこいい。だから。  いつまでも八分目であって欲しいって思うさ。 天国へ行く前も気軽に、お前ら程ほどで来いよって。 皆、泣いてたけど。俺は祖父が最後まで英雄だった。  何処まででも上に伸びそうでも「八が程。」 江戸の昔は八百万石、八百八町に、嘘も八百だし、 八十八夜、八丈島に、八百万の神柱、仏法八大地獄。 狸のXXXXは八畳敷きってのもあるか。程か。  で、祖父の言葉で今も解らないのが、無欲も八分目。 無欲っていったって、生きるうえで利鞘は当然。
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