第1章

4/5
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
ボランティアとは違う考え方だし。  なんだろう。無欲も八分目とは。  で、長くなった(こういう前置きこそ八分目だろ。) とにかく今日も帰宅は午前過ぎだった。酒も呑まず。 どころかまともな飯も食ってない気がする。  最近、食欲がないんだ。一日に一食でも普通。 とにかく、まず手元のコンビニのサンドイッチよりも 手元の仕事をやってしまいたい。好きだけど。 嫌ではないのだけれど。  祖父は神様とさえ呼ばれた棟梁は、丁寧で素早く。 確実で安全に。だが、絶対に夕暮れの同じ時刻には 絶対に、どんなに途中でも仕事を切り上げた。 無論、完成したからではない。  多分……。そこが八分目なのかもしれない。  時代が変わった。それでは食っていけない。 いつか「遊ぶ時間」さえも、誰かの仕事に加担して 皆が、労わりながら遊び、働き、遊び、働き。 これすら【八分目】がないままに、循環して……。  我に帰った。まだ部屋の電気も点けていないし スーツも着替えていない。その薄い闇の中で。 何も無い、飾りたい玩具もない。欲しい物が無い。 そのダランと掛かったYシャツの群れの一番前に。  袖から手が出ている。手だけ。首も足もない。 Yシャツが胴で膨らんでもいないし、 二の腕の部分なども平らのまま、薄汚れている。 だが手だけ両手が出ている。最初の感想は。  クリーニングに出さないとな。ごめんな。  だった。洗う暇がない。アイロンする時間もない。 だから。クリーニング屋さんにまとめてお願いする。  電気を点ける気力もない。カバンを投げて。 かろうじて上着だけを椅子にかけて。 そのまま、ベッドに寝転んで眠りたい。ごめんな。  何時間、眠ってしまったのだろう、飛び起きて 時計をみた。たった、十五分くらいしか経ってない。 着替えなくちゃ。せめてシャワーを浴びよう。 電気のスイッチ。スイッチ。スイッチ。  Yシャツの手は、まだある。  常識で一眠りして、まだ寝惚けているって 誰だって思うだろう?それ当たり前の考えだと思う。 でも、俺は気には止めていたけれど、驚かない。  袖から出ている手に、大切な事が二つあったから。  一つ目はYシャツは別に八分袖とかじゃないさ。 普通のYシャツなんだから。ただ、ヒョロリ伸びた腕。 それが中途半端で、まるで袖の方が八分に見えて、 滑稽だったんだ。不恰好で。まるで、なんていうか。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!