出会いの記録

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「………………」 コトリと。塩見先生はマグカップを机の上に置き、無言でこちらを睨めつける。 いや睨めつけると言えば誤解があるかもしれない。 こちらに鋭い視線が飛んできているのは間違いないがそれは先程までの咎めるような視線ではなく、どこか優しいような、自分を憐れむような、そんな視線だ。 「……時に君は勤勉は尊いものだとさっき言ったね」 「言ってませんよ? 確かに働かないのはド三流、けれど馬鹿正直働くのも二流、真の一流は押し付けられることは全部他人にやらせて頑張ってるアピールするんだよ! みたいなニュアンスですシオミー」 「つくづく救いようがないな。後シオミー言うな」 自分と塩見先生、もといシオミーの付き合いはかれこれ一年になる。もちろん深い仲とは言えないが生徒と先生という枠組みで見れば仲がいいと言える部類だろうな。 彼女には去年も大変お世話になった、主に出席日数的な問題で。おそらく彼女の尽力がなければ自分はもう一度一年生を繰り返していただろう。 「『○○ ○○○君』。私は君のことは多少なりは理解しているつもりだ」 「客観的に見ると問題児、素行不良、無気力、若干中二病、うざい奴……こんなもんですね」 「──あぁ、恐ろしいまでの自己分析だな」 その驚いたような声は少しわざとらしい。 シオミーはマグカップのコーヒーに一つ、口をつけるとまた例の視線で自分の体を蹂躙する。 我が子を慈しむような(三十路手前にしてガキどころか相手すら居ないくせに)そんな暖かい視線だ。今一瞬業火になったけど。 暖かくて、心が安らいで、安心できて、 ────────吐き気がする。
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