出会いの記録

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「もちろん個人的な意見だ。教師の立場としては学校に来る義務があるとそう指導する」 あ、そうだ! 熱があるんだった! これは一刻も早く帰って安静にしなくては。 自分に向けられる視線なんて完全に意識の外に置いてベッドに置いていた鞄を持ち上げ…………ブレザーを着るのを忘れていたのでそれをもう一度ベッドに投げる。 「『○○ ○○○』。別に学校生活に飽き飽きしてるのは別にいいさ、個人の感情なんてこうしろああしろ言うもんじゃないし言うべき物じゃない。けど私から見てお前は──────」 「先生」 自分でも驚くほど苛立った声が勝手に口から飛び出した。先生が続ける言葉をぶった切って次の句を継げないようにするには充分なほどの勢いと静けさだ。 「先生、さっきの教師の領分云々の前置きはつまりこれですか」 「……………」 「分かってるならその領分から出ないでくださいよ。教師と生徒以上の間柄は自分と貴女にはないんですから。『こっちに入って来ないで下さい』」 「…………」 「貴女には関係ない」 底冷えするような声。こんなこと言うつもりはなかったのに────思ってはいるけど。言葉になるとは少し意外だ。 自分の言葉を受けてシオミーは頭をポリポリと掻きバツの悪そうに俯いた。大してショックを受けている様子がないのは僥倖だがシオミーはこの空気を打ち破る言葉は持たない。当然自分も。 ……………………。 「帰ります。帰らせてください」 塩見先生は一言『そうか』としか言わなかった。自分は荷物を纏めて扉に向かう。 「なあ『◯◯』、お前は……」 「さようなら塩見先生、また昼休みに会いましょうね」 塩見先生の言葉をぶった切って自分はニッコリと笑顔を浮かべる。 鏡がないから見れないけれどそれは大層歪な笑顔だったんだろう、なんとなくそう思った。いや笑顔は得意だから形は綺麗にできてるはずだ。形だけは。 去り際にチラリと見えた塩見先生の顔が酷く頭にこびりついた。
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