出会いの記録

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「……はぁ」 山本なんて視界からも意識からもこの世からも消し去って自分は小さく息を吐く。 邪魔が入った至福の一時を自分は幸福として享受出来るか。否。 至福の一時とは神の作りたもう奇跡なのだ! その至高の瞬間を妥協するなど天に唾吐く鬼の諸行、悪鬼羅刹の行い、断じて許してはならない! …………。 「────気色悪っ」 ポツリと独り言が口を突いて出た。 山本は隣で何が楽しいのかニコニコしているだけで話しかけもせずただこちらを見ている。 チラリと時計に目をやった。時刻は昼休みが終わる二十七分前、昼食は始まると同時に適当に焼きそばパンとメロンパンで既に済ませてしまっている。 適当にとは言ったけれど非常に美味でした、小麦粉万歳。────気が乗らないな。 「……山本くんちょっといい?」 「え、あっ何かな?」 「ちょ、ちょっとね……なんか急に気分が悪くなっちゃって」 「っ!そ、それは大変だよ!僕が先生を────」 「ううん、自分で保健室行くからもし五限が始まっても帰ってこなかったら山本くんからも先生に伝えてくれないかな?」 「いや、でもやっぱり……!」 「大丈夫」 自分はよく授業を体調を崩して、もとい仮病で休んでしまう体の弱い子だ。 山本は多分心から心配してくれてるのだろうけれど今はその心配は迷惑だ、悪いとは思うけれど有難くもない迷惑だ。 パッパッとごちゃごちゃした机の上の教科書やらルーズリーフやらをカバンに突っ込んでブレザーを羽織り少し足取りの覚束ない様子で立ち上がる。 「心配かけてごめんね」 自分はしんどいけど相手を思いやるようになんとか微笑を浮かべるけれどやはりフラフラとした、そんな細やか演技をしながら慣れた保健室への道のりへと向かった。
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