出会いの記録

6/24

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
* 「先生聞いてください、昔ある人が言いました『働いたら負けかな』────それは違う!」 「ああ、先生も全くもって同意だよ」 「確かに仕事は辛いことや苦しいこともたくさんあります、けれど働かなければ……もっと言えばお金が無ければ生きて行けません」 「ああまだ正しいな」 「もちろん働かなくても金銭を得る手段はあります。けれど日本国民には労働の義務がある! つまり働くことがスタンダードであり働かずに生きることはヒトとしては生きているけれど人間として生活してはいないのです!」 「ああ、ご高説ありがとう『○○君』」 パチパチと投げやりな拍手で自分の演説を養護教諭の塩見先生は讃えてくれた。 そして塩見先生はハッとするような笑みを浮かべると自分に『三十七度六分』を指している体温計を差し出し、 「これはなんだ?」 「見ての通り体温計です。三十七度六分は高熱とは言えませんが微熱にしては少々高いですね。大事を取って帰ったほうがいいんじゃないですか、自分」 「はは、面白いこと言うな」 塩見先生は作り笑いを浮かべつつ体温計をひっくり返した。口元はニッコリと歪んでいるが目元は鋭く自分を見つめている。 「『○○君』、私は君と他の一般生徒と比べて多少付き合いがあるからね」 「はいもちろん自分も塩見先生にはよくして頂いてると思っています」 「で、だ……」 塩見先生はこちら側に向いていた椅子をくるりと一度机の方に向ける。そして再びこちら側に向けると仰々しく足を組んだ。 「時に『○○君』、君が今月何回保健室に来たか覚えているかい?」 「はあ、分かりかね────」 「九回だ」 辛うじて口元は釣りあがっているが人でも殺すんじゃないかというような視線──── いやそんなもの生温い、まず手足の生爪を一枚一枚剥がした後焼いた鉄の棒で全身を滅多撃ちにして全身に電流を流しながらナイフで足から順番にスライスしていく。 そんな想像するのも悍ましい強烈な狂気と悪意を孕んだような視線が自分を貫いた。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加