出会いの記録

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「話は変わるが私はある疑念を抱いて保健室の体温計全てにマークを付けていたんだ。ほらここだ」 「あ、本当ですね!」 塩見先生が差し出した先程のとは別の体温計の裏側にはウネウネとした黒いマークが確かに付けてあった。 そして当然、自分が差し出した体温計にはそのウネウネマークは付いていない。反対に自分のポケットに入ってる方の体温計には付いているんだろう。 この学校が使っている某メーカーの体温計は最後に測定した体温が次に使う時に一瞬表示されるようになっている。昔ながらのちゃちな奴よりもそれなりにこんな細々としたものにお金を掛けているのは流石有名私立。 それはさておき体温というのは人の体調の良し悪しを調べる時に重要な物差しになる。つまり裏返せば体温が高いという証拠を見せれば体調不良を訴えることができるのだ。 だからすり替えた。 わざわざ同じメーカーの奴を買ってきて、何度もお湯につけて微調整したりして0.1度の誤差も無く。高すぎると怪しまれるが低すぎると帰れない、ベストの体温、三十七度六分を記録として刻み込む。 後は簡単だ。先生から受け取った体温計を挟み、音が鳴るまで待つ。鳴ったら作業をしている先生のとこに行くまでにポケットの体温計とすり替え、一度消してしまったかのように見せかけて渡す。 完璧な工作だ、完璧な工作だったはずだ。そんな小細工さえされなければ。 「……なんで分かったんです?」 観念して気持ち悪い話し方を止め敗北を噛み締めながら問い正すと塩見女史はひとつ溜め息をして、 「普通に考えて九日も連続でキッカリ三十七度六分で早退して次の日はまた元気に来る。どう考えてもおかしいだろうに」 ですよね!
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