**長い夜**

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「俺は今日お前を抱きたいと思ったから抱いた……俺の意思で抱いた だから……ボランティアだなんて二度と言うな 少なくともあの時俺はお前の事だけを考えてた 誰とでも出来る訳じゃない…… お前だったからいいと思ったんだ お前は……双葉は俺じゃなくても誰でも良かったのか?」 苦しそうに顔を歪めて私に問う主任を見て、胸の奥がズキンと痛んだ どういう意味……? 私を抱きたいと思って私の事だけ考えて抱いてくれたの……? 私だったからいいと思ってくれたの? 誰とでも出来る訳じゃない……そう言ってくれた主任に嬉しさが込み上げて来る…… 私だって…… 私だって……こんな事誰とでも出来る訳じゃない 何とも思ってない相手とこんな事…… 何故、こんな事出来たのか、自分でだってわからないんだ…… 私は両手をギュッと強く握りしめる 「私だって、誰でもよかったんじゃない 多分……主任だったから…… 他の人だったら……きっとしてない…… でも……だからって別に私達がこの先どうかなる訳じゃないでしょ?」 そう言った後、この答えを聞くのがなんとなく怖くなって主任を見ることが出来ずにそのままドアに手をかけた 「わかった…… 正直、今日の事は俺にとっても想定外の事だったよ まさか、お前とこんな風になるとはな…… 俺自身も驚いてる 部下を慰めるつもりが、手をだしちゃうなんて……とんでもない上司だよな でも、さっき言ったように、お前を抱きたいと思ったのは嘘じゃない だから出来れば今日の事、お前の中で嫌な思い出にしないで欲しい……」 主任の言葉に驚いて振り返ると、シートに背を預けて私を見ながら少し罰悪そうに笑っていた 「…………ありがとうございます 素敵な思い出にさせてもらいます」 「うん、ありがと じゃあ、また後でな、遅刻すんなよ」 見たことのない爽やかな笑顔を残し、車は来た道を戻って行った 暫くその場で立ち尽くしていたが とりあえず準備しなきゃ…… 後で考えるよ、そう後でゆっくり…… 私は自分にそう言い聞かせざわつく気持ちを無理矢理胸の奥に封じ込め、慌てて部屋に帰った
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