序章

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 黄色の花弁が春一番の風に揺れていた。  アスファルトの隙間から長い茎を伸ばし、その先で無数の小さな花びらが開いている。それはどこにでも咲き、誰にも愛される花。 蒲公英と書いてタンポポ。  冬から目覚めたタンポポたちはアスファルトの割れ目に沿って道路から顔を出していた。  彼らは毎年そこに花を咲かせ、やがて、綿毛となって大空へ羽ばたいてゆく。  同じ場所に咲いているように見えるが実はそのタンポポは毎年生え代わり違うタンポポになっている。  同じ境遇に生まれた人間が、先人と違う人生を歩むように。
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