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「道明寺(どうみょうじ)」
この社会は完全な縦社会で、どれだけ若かろうが女だろうが実力とキャリアが物を言う。
「何でしょうか」
だから例えどれだけ気に入らないヤツだろうが、どれだけセクハラとパワハラがひどいヤツだろうが、自分より階級が上であれば許される。
全く腐った社会はこうも頑丈に出来ているから始末に負えない。
心の中でそんなことを言われていることを露にも思っていない50歳代の脂ぎった親父がメガネを直しながら適当なことを今日も言っている。
素直にわからなければわからないと言えばいいのに、こんなときだけ邪魔をするプライドはこんなヤツにも備わっているのかと思うとぞっとする。
「この前頼んだ資料はぁ、あー…どうなったんだね?」
「主任が心配されなくても終了しています」
「そうかそうか、さすが玲子くんだ」
(誰が下の名前で呼んでいいって言ったのよ。このデブ)
ここは昔で言えば警察、今は警察官ではなく警護官と呼ばれる法の末端。サイバー対策課であるここには辺りには所狭しとパソコンが並べられていて、低い唸りを上げ続けている。
その中でパソコンもまともにつかないこいつが課のトップというのが非常に納得がいかないが、どうせ数年もしない内に私の方が上に立つ。絶対にそうなってやる。
そうしたらせいぜいお茶くみ位はこき使ってやろう。そう思えばむかつく気持ちと一緒に出て来てしまった“裏側”の私の気持ちがすっと溶けて消えて行く。
ハイヒールのかかとを鳴らしながら自席につけば、待ってましたとばかりに班は違うが席が隣のマッシュルームカットの男が話しかけてくる。
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