【姫君のあやまち】

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**  「食らえ、シャイニングソード!!」  男が手にするくろがねの切っ先がプラチナばりの光を放ち、横薙ぎに駆けた。  どさっ。  雨ざらしの土の上に崩れ落ちたものから赤い染みがじわりと広がった。  「この人殺し!」  「何を言っているのだ!? 先に姫様を拐ったのはお前達盗賊団であろうっ!?  僕はただ、天命に従って悪しき血に穢された魂の救済をしているだけだ!」  「く、狂ってやがる、ボスぅううう」  眼前に並んでいた盗賊の下っ端Aを倒してすぐにも、BCはすぐに逃亡。  血塗れの剣を手にする男の脳内では、ファンファーレが高らかと鳴り響き渡る。 「スグリはレベルが上がったー、からの力、素早さ、賢さ……ふんふん、なかなかの成長率だな。  どれさっさとアマリネ姫を助けに行かねばな……聖なる血潮は悪に屈しはしない!」  彼の名は、スグリ。  ジニア国騎士団でも変わり者として有名である。ネット中毒が過ぎて『0101(おいおい)ウィルス』に感染した十代後期の若者である。  騎士は聖銀装備でなければいけない、というやり過ぎた拘りから身体を鍛えまくり、今や全身美術品のようないかつい姿が彼のパーソナリティとなりつつある。 大神殿や豪邸などの潜入捜査で廊下の端に立っていて気付かれたことはないのが自慢である。彼が歩くときにガシャンガシャン鳴るのは、死へのカウントダウンとさえ囁かれる始末。  自国の姫が拐われた――これは影で絶望と混沌の魔王が復活する歴史的前触れの1ページ目なのだと結論付け、王に直談判し、身代金の送金先として登録されていた盗賊団の住所まで押し掛けたという話だ。  「ばかめ、送金先に本拠地を指定するような親切な盗賊団がどこの世にいる!?  身代金の引き渡し場所で取り押さえられる未来よりも、総勢で攻め込まれる未来を引き寄せたということか。  その心意気や良し……この勇者スグリ様が、誠意をもって引導を渡してくれる!」  ガシャンガシャン  彼の雄叫びは甲冑らが奏でる金属音に掻き消され、常人には殆ど聞き取れないレベルだということを明記しておこう。  「目的の本拠地、洞窟まであと300メートル……待っていてくれ、アマリネ姫!  暗闇の世界からすぐにこの僕が助け出し、ひいてはこの世界が闇に呑まれるフラグを全面回避して――あ」  スグリはブーツの爪先で石ころに躓き、顔から打ち付け、鼻血を噴き出した。
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