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待合室について壁時計を確認すると、既に21時を過ぎた所だった。
患者の姿はもちろん、看護婦の姿も無い。
受付の奥にある医務室の電気が点いている事に気づいた僕が中に入って行く。
「どうした?お前はもう自由なんだ……せっかく解放してやったんだから、家にでも帰れ。西山も昨日から帰っている」
お父さんは難しい医学本を手にカルテを見つめながら話しかけてくる。
「西山が帰っているってどういう事?あいつは……京都から戻ってすぐに家に帰ったはずじゃ……」
「念のために顔を変えておいたんだよ。あいつもお前と同じで、前と同じ顔じゃない……。親子にしては似てなさすぎだったからな……いいタイミングで顔を変えれた」
お父さんはそう言って顎鬚を触り、不敵な笑みを浮かべる。
「お父さんは……一体何人の人間を殺したの?」
僕の質問に、お父さんは分厚い本を閉じ、無表情で天井を見つめる。
「さぁ……何人殺したのかな。そんなもん、数えた事も無い。大貴は、生まれてから今までに、蚊を何匹殺したと聞かれて即答出来るか?それと一緒だよ」
その言葉を聞き、異常だと感じない僕も、既に異常なんだろう。
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