カオハギの誕生

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病院から出た僕は外の空気を久しぶりに全身で感じていた。 僕の心は異常でも、四季の移り変わりは正常らしい。 11月の終わり特有の冬の始まりを告げるような冷たい風が、霧島市内に吹いていた。 ポケットに入っているスマホは半年前と変わらず、電源が落ちている。 電源が落ちていなくても、連絡が来ることはほとんど無いのだが、時間が確認出来ないのは厄介だ。 しばらく歩き、半年ぶりに西山家に戻ってくる。 いや、西山家の振りをした西野家と言った方が正しい表現だろう。 門をくぐり、玄関の扉を開けようとしたが施錠されている。 僕はチャイムを鳴らし、西山が出てくるのを待った。 奥からドタドタという品の無い足音が聞こえると同時に、見たことの無い男が扉をゆっくり開いた。 「どなたですか?ん、もしかしてお前……」 男は驚いた顔で僕の顔をジッと見つめている。 その男の声が僕の頭の中で西山の声と合致する。 「あんたも顔を変えられたんだってね……」 僕はそう呟き、鼻で笑いながら家の中に入った。
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