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―――…
此所は、幕末、京の都。
昼間は賑やかで、話し声や喧嘩が絶えない所だ。
だが、一見何もなく平和な様に見えていても、陽が沈み月が顔を出すと昼間の様とは違い、途端に治安が悪くなる。
その為、辻斬りや盗人等悪事を働く者が出没する。とても危ない場所でもあるのだ。
最近では、元は“人”であっただろう死体が裏道に転がっていたりするなど、最も治安が悪い時期でもある。
そんな事を知ってか知らずか、この時代では珍しい服装をしている一人の少年が夜道をマイペースに歩いていた。
フード付きのパーカー、ジーパンにブーツカットのスニーカー。
そして、肩から刀袋を掛けている
全て黒一色のコーディネートだ。
闇に溶け込んでいて、目を凝らしても見付けるのが困難な服装をしていた。
『…おろ?俺何時こんな道に来たんだ?』
と、不思議そうに呟く。
………この道を通っていたのは知らなかったと言うより、無意識だったらしい。
なんと言うか、不運としか言いようがない少年である。
でもこんな事に慣れているのか、少年は足を止めること無く真っ直ぐに突き進んで行く。
『む?この独特な匂いは…。少し急いでみますか』
少年は進行方向から何かの匂いを嗅ぎ付け、少し早足で進んでいった。
少し経つと、不気味な声が聞こえてきた。
《…ヒヒッ!血ィ……血ダァア!!》
白髪赤眼。
見ためは普通の“人”と同じなのだが、声はくぐもっており至極楽しそうに息絶えているであろうそれに、グサグサと何回も、何度も刺し続けていた。
『…3人か。あんな事をして楽しいのかね?
つか、どっかで見覚えが…。気のせい?』
等と言っている少年の表情は、ずっと口角を持ち上げた薄い笑みのまま。
緊張や恐怖すら感じられない。
すると、少年は肩から刀袋を取り、刀を取り出した。
その刀は、この場にそぐわない程汚れのない純白の鞘と柄であった。
一目見ただけで、高級な代物だと分かる。
鞘から刀身を出し、正面に構えることをせずに両腕をダランとさせる。
そんな動作をしながらも、少年は1歩、また1歩と歩みを進めているのだが、未だに死体に刀を刺し続けている3人の男達は此方に気が付いていない。
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